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中小企業における労使関係の見解

中小企業家同友会は、1975年に「中小企業における労使関係の見解(=労使見解)」(「人を生かす経営」所収)を発表しています。経営者の経営責任、対等な労使関係などについての考え方を明らかにしたもので、その見解の実践として経営指針確立運動や社員教育活動が始まりました。時代に応じてその精神の普及と実践に努めています。

中小企業における労使関係の見解
1. 経営者の責任
 われわれ中小企業をとりまく情勢や環境は、ますますきびしさを加え、その中で中小企業経営を維持し発展させることは並大抵のことではありません。しかし、だからといってわれわれ中小企業経営者が情勢の困難さを口実にして経営者としての責任を十分果たさなかったり、あきらめたり、なげやりにすることが間違いであることはいうまでもありません。

 経営者は「中小企業だから、なにも言わなくても労働者や労働組合はわかってくれるはずだ」という期待や甘えは捨て去らねばなりません。これでは自らの責任を果たしているとはいえないのです。

 経営者である以上、いかに環境がきびしくとも、時代の変化に対応して、経営を維持し発展させる責任があります。

 経営者は企業の全機能をフルに発揮させて、企業の合理化を促進して生産性を高め、企業発展に必要な生産と利益を確保するために、全力を傾注しなければなりません。

 そのためには、われわれ経営者は資金計画、利益計画など長期的にも英知を結集して経営を計画し、経営全般について明確な指針をつくることがなによりも大切です。同時に現在ほどはげしく移り変わる情勢の変化に対応できる経営者の能力(判断力と実行力)を要求される時代はありません。

 新製品、新技術の開発につとめ、幹部を育て、社員教育を推進するなど、経営者としてやらねばならぬことは山ほどありますが、なによりも実際の仕事を遂行する労働者の生活を保障するとともに、高い志気のもとに、労働者の自発性が発揮される状態を企業内に確立する努力が決定的に重要です。

 経営の全機能を十分に発揮させるキーポイントは、正しい労使関係を樹立することであるといっても過言ではありません。

2.対等な労使関係
 労使関係とは労働者が労働力を提供し、使用者はその代償として賃金を支払うという一定の雇用関係であると同時に、現代においてはこれを軸として生じた社会的関係でもあります。

 企業内においては、労働者は一定の契約にもとづいて経営者に労働力を提供するわけですが、労働者の全人格を束縛するわけではありません。

 契約は双方対等の立場で取り交わされることがたてまえですから、労働者が契約内容に不満をもち、改訂を求めることは、むしろ当然のことと割り切って考えなければなりません。その意味で労使は相互に独立した人格と権利をもった対等な関係にあるといえます。

 憲法や労働三法などによって労働者は個人的にも、労働組合としても基本的権利が定められています。経営者としては、労働者、労働組合の基本的権利は尊重するという精神がなければ、話し合いの根底基盤が失われることになり、とても正常な労使関係の確立はのぞめません。

 しかし、以上のことは<1.経営者の責任>の項と対立するものではありません。すなわち、人格としてまったく対等であるが、企業の労働時間内では経営権の下における管理機構や、業務指示の系統は従業員にとって尊重されるべきものです。

3.労使関係における問題の処理について
 中小企業経営者と労働者は経営内において雇用と被雇用の関係という点で立場がまったくちがうわけですから、労使の矛盾や紛争がまったくなくなるということは決してありません。

 労使の間で日常不断に生まれてくる労働諸条件やその他多くの問題の処理については、労使が対等な立場で徹底的に話し合い、労働組合のあるところでは団体交渉の場において解決することが原則であると考えます。

 団体交渉の内容方法は労使双方の意識水準、歴史の過程、全人格がすべて投影されるわけですから、一定の公式などあるはずはありません。

 つまらないことから相互不信を招かないような、ごく一般的な手法は必要不可欠ですが、基本的には誠心誠意交渉にのぞむ経営者の姿勢、態度こそ、もっとも大切なことです。経営者が労働者の立場、考え方、感情をできるかぎり理解しようという姿勢は話し合いの前提でありますし、また労働条件の改善について実行できること、また必要なことは積極的に取り組むという姿勢が大事です。

 しかし同時に、いわゆるものわかりの良い経営者がイコール経営的にすぐれた経営者とはいえません。

 労働条件の改善について、直ちに実行できること、実行について検討してみること、当面は不可能なことなどをはっきりさせることが必要です。

 もし、それを実行しなければ経営は前進しないし、経営者として従業員にも責任を負えないような重要問題については、全情熱をかたむけて労働者を説得し、あらゆる角度から理解と協力を求める努力をつくさなければなりません。

 労使のコミュニケーションをよくすることは経営者の責任です。「当社の労働者は、ものわかりが悪い」といくら愚痴をこぼしても問題は一歩も前進しません。そのためには、労使間の問題を団体交渉の場で話し合うだけでは不十分です。

 職場内の会社組織を通じ、その他あらゆる機会をとらえて、労使の意思の疎通をはかり、それぞれの業界や企業のおかれている現状や、経営者の考え、姿勢をはっきり説明すると同時に、労働者の意見や、感情をできるだけ正しくうけとめる常日頃の努力が必要です。

4.賃金と労使関係について
 労働者と労働組合は、高い経済要求をもっており、労働時間の短縮をつよくのぞんでいます。経済的要求については、高度成長政策、インフレ政策のもとでの労働者の生活実態をよく考え、産業別、業種別、地域別、同業同規模企業などの賃金実態、初任給などを比較検討し、その上で誠意をもって話し合い、交渉するという態度を堅持します。

 しかし現実には、企業の力量をよく見きわめ、企業発展の経営計画をあきらかにしめし、長期、短期の展望のなかで、妥協できる節度のある賃金の引き上げをはかることがのぞましいと考えます。そのためにも

社会的な賃金水準、賃上げ相場
企業における実際的な支払い能力、力量
物価の動向
 という三つの側面を正確につかみ、労働者に誠意をもって説得し、解決をはかり、一方、その支払い能力を保証するための経営計画を、労働者に周知徹底させることが必要です。このように節度ある賃金の引き上げをはかるためにも労使が協力しなければ達成できないでしょう。

 経営者は昇給の時期、その最低率(額)および賞与の時期、その最低率(額)と方法などについて明確にできるものは規定化するよう努力すべきです。

 また、労働者と労働組合が、きわめて強い関心をもっている労働時間の短縮についても社会的趨勢としてこれをとらえ、一歩一歩着実に、産業別や業界の水準に遅れぬよう、そのプログラムを事前に組む必要があります。

5.労使における新しい問題
 産業構造高度化の進展と、ぎりぎりまでの近代化、合理化の進行の過程の中で労働者の人間性回復の問題が新しく登場します。

 労働者の職場選択の最大の要素として「やりがいのある仕事」が第一位にランクされています。労働者の雇用の促進と定着性の問題を考えてみても、このことは、非常に大切です。労使関係には、ただたんに経済的な労働条件だけでは解決できない要素があることを重視する必要があります。

 労働は苦痛であるという面もありますが、その中で労働者は「やりがいのある仕事」、労働に対する誇りと喜びを求めていることも事実です。

 技術革新の進む中で、仕事はますます単純化され合理化されるので、なおいっそう、労働者の労働に対する自発性と創意性をいかに作り出していくかは、とくに中小企業家の関心をもつべき大きな課題です。

6.労使関係の新しい次元への発展
 われわれは、労使関係について長い苦悩にみちた失敗の経験と、いくつかの成功の経験をもっています。しかし、まだ経験を一般化するまでに経験の交流と討議を経ていません。

 労働組合がつくられて間もない経営、頻繁にストライキを反復され、労使紛争のたえない経営、二つの分裂した労組のある経営、労働組合がつくられ、長い年月を経て相互の切磋琢磨によって高い次元にまで達した労使関係をもつ経営などがあります。

 われわれ中小企業家は、その企業内の労働者と労働組合の団結の強さの度合い、上部組織の関係、その思想意識の状態などに十分対応できる能力をもたなければならないと考えます。

 中小企業においては、家族的で人間のふれあいのある労使の関係、労働組合のあるなしにかかわらず、積極的に労働条件を改善するとともに、意志疎通をはかることによって、相互の信頼感が十分に形成されている労使関係など、中小企業として、社会経済情勢の変化に即応した労使の関係がつくられてきました。

 しかしある程度の認識や関心をもっていても、労働組合の結成時や社会経済情勢の激変期、また、誠意をもって話し合っているにもかかわらず団体交渉において行きづまりが生じた場合などは、労使の親近感が急速に崩れることさえあります。

 中小企業といえども、時には対立や紛争状態も避けられない場合があり、このような過程をたどりながら、新しい次元の相互の信頼へとすすむものと考えます。

 労使は、相互に独立した権利主体として認めあい、話し合い、交渉して労使問題を処理し、生産と企業と生活の防衛にあたっては、相互に理解しあって協力する新しい型の労使関係をつくるべきであると考えます。このような中小企業における労使の関係が成立する条件はいま、社会的に成熟しつつあります。

7.中小企業における労働運動へのわれわれの期待
 中同協(同友会)は、中小企業をとりまく社会的、経済的、政治的環境を改善し、中小企業の経営を守り、安定させ、日本経済の自主的、平和的な繁栄をめざして運動しています。

 それは、大企業優先政策のもとで、財政、税制、金融、資材、労働力の雇用や下請関係、大企業との競争関係の面で多くの改善しなければならない問題をかかえているからです。

 そしてまた、中小企業に働く労働者の生活についても深い関心をはらい、その労働条件の改善についても努力をつづけてきました。しかし、必ずしも大企業の水準に達していない状態については着実に改善をはからなければならないと考えています。

 また中小企業家がいかに企業努力を払ったとしても、労使関係に横たわるすべての問題を企業内で解決することは不可能であり、労働者、労働組合の生活と権利を保障するために、民主的な相互協力関係をきずきあげる持続的な努力が双方に課せられると考えます。相互にその立場を尊重しあい、相手に対して一面的な見方や敵対視する態度を改めることが必要です。

 公営企業や大企業とちがって、中小企業における「労働運動の要求とたたかい」においては、中小企業の現実に立脚して、節度ある「たたかい」を期待するとともに、労使間の矛盾、問題の処理にあたっては、話し合いを基本とするルールを尊重して解決点を見出すことを期待します。

 国民生活のゆたかな繁栄のために中小企業の存立と繁栄は欠くことのできないものであり、中小企業における労働者、労働組合にとってもその安定性のある企業と職場は生活の場であり、社会的に活動するよりどころとして正しく理解するよう期待します。

8.中小企業の労使双方にとっての共通課題
 前にも述べたように「中小企業家がいかにして企業努力を払ったとしても、労使関係に横たわるすべての問題を企業内で解決することは不可能」です。

 なかでも、物価問題、住宅問題、社会保障問題、福利厚生施設問題などは企業内では解決できず、当然政府ならびに自治体の問題、政治的に解決をはからなければならないきわめて重大な問題です。

 これらの問題を解決するために積極的に運動することは、中小企業家としての責任であり、また、自己の経営の労使関係にも重大なかかわりがあるのだ、という自覚をもって同友会運動をより積極的に前進させなければなりません。

 広く中小企業をとりまく諸環境の改善をめざす同友会運動は、そこに働く労働者の問題でもあり、その意味において中小企業経営者と中小企業労働者とは、同じ基盤に立っていると考えます。

 中小企業家同友会全国協議会は、ここに参加する中小企業家のたえまない努力によって、ここに述べられているような労使関係の改善と確立のために奮闘するとともに、全国のすべての中小企業家と労働各団体にもこの見解の理解を求め、ひろめるよう努力するものです。

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