同友会ニュース−活動報告

エネルギーシフトへの挑戦〈 その2〉 秩父市バイオマスタウン構想の取組

 秩父市の取組は、行政が地元資源の有効活用として森林資源に着目し、放置されていた林地残材等の活用による発電・排熱利用といったコージェネレーションシステムの構築という先導的なものでした。実証実験的な事業によって様々なノウハウを積み重ね、未利用資源の活用による循環型社会の構築を目的とする一方で、荒川の上流域に位置する自治体の責務として、綺麗な水を川下に流すという使命感も帯びた取組でした。

秩父の時代変化

 \;  秩父市は平成17年4月1日に旧秩父市、吉田町、大滝村、荒川村との合併により誕生し、埼玉県の総面積の15%を占める市になりました。森林面積は市域の87%となり、これは県内の森林面積の約40%を占める広さです。現在の人口は約66,000人(合併時の約72,700人から減少傾向)で、多くの自治体と同様に少子高齢化の波が大きく押し寄せています。かつて秩父市では養蚕・製糸産業や林業産出額の多い時代がありましたが、絹の国際取引が盛んになる中で品質よりも価格重視で暴落があり、また木材は輸入木材の関税ゼロ政策等の煽りから林業産出額は減少してきました。近年では90年以上の間、基幹産業の一つになっていたセメント工場が平成22年から生産体制の見直しにより事業を縮小し、現在、市内にある武甲山(ぶこうさん)から産出される石灰岩は主に熊谷工場に運ばれてセメントに加工されています。これも、不況による建築・土木業界の低迷、国内需要の著しい減少などの時代背景が色濃く影響しているようです。

就労人口の増加を図るため工業団地の誘致が行われましたが、都心に近い地域性もあり、就労機会を他に求める傾向から若年層の流出が多く、特に山間部では急激な人口減少と高齢化が進んでいます。就労人口の産業別比率の推移では、第1次産業が昭和30年代では30%ありましたが、昭和55年には約10%となり、平成17年には3.6%(林業は0.2%)まで減少してきました。こういった時代の変化に影響された秩父市が林業の衰退に歯止めをかけ、森林活用からエネルギーの地産地消による経済活性化と環境対応に向けた取組を進めてきたことは、将来の秩父の姿を明るいものにできる可能性があり、そこに着手された自治体ぐるみのエネルギーシフト(※1)だと期待が膨らみました。  \;

               ▲てんぷら油リサイクル

バイオマスタウン構想の取組

 秩父市の「バイオマスタウン構想」の概要は、1.未利用の林地残材を活用した木質バイオマス発電と発電に伴う排熱の利用、2.使用済みてんぷら油をBDF(バイオディーゼル燃料)にして軽油の使用量削減、3.バイオマスによる排水処理施設(生活雑排水、トイレ、浄化槽)の設置、4.これらの実証実験的な経験を積んで実用化を目指し、併せて温室効果ガスCO2排出量の削減や循環型社会の構築に向けた環境学習の推進を行う、といったもので、平成18年からの取組をまとめたものです。林地残材の主なものは、枝払いや玉切りの際に発生する端材や末木枝条、森林を健全な状態に保つために定期的に間伐された材などです。その多くは山から搬出してもコストに見合う価格で売れないため、林内に放置されたままになってしまいますが、秩父市のバイオマス発電ではこの残材を活用します。このほか、秩父市のバイオマスタウン構想は家畜排せつ物などの活用も視野に入れて計画が策定されましたが、実際には地域の畜産業規模では供給量が不足することが分かり実用化は難しいと判断されたそうです。  \;

           ▲トイレ汚水処理施設      

過去からの取組やビジョン

 \; 秩父市には、近隣の4町とともに平成24年12月に策定された「ちちぶ環境基本計画」があり、一般市民、事業所、行政の三位一体で地域の特性を活かした環境学習を進め、環境に優しい資源の循環型社会を創りながら経済回生も推進し、次世代に誇れる秩父市を後世に残そうという基本理念があります。これらは、秩父市が荒川の上流域(東京湾まで173km、流域人口は975万人)に位置していることから、市民・事業所・行政が一丸となって環境づくりに取り組まなければならないという使命感があり、また時代の変遷やグローバル的な視野からも地方が成すべき役割を深く模索された結果の取組指針となっています。
 更に、市町村合併後の平成21年2月に発表された「秩父市新エネルギービジョン」には、地球温暖化防止と森林保全への取組を新エネルギー政策等によって対応するといった基本理念が示されています。合併後の広がった市域を背景に、地域の豊富な財産である太陽光・水力・風力・バイオマスといった自然エネルギーを活用して、循環型のエネルギー体系を構築し、観光産業等とも連携を図りながら、「森と水の力がほとばしる元気なまち ちちぶ」として、地域エネルギーの地産地消で地域経済の活性化を図ろうというビジョンとなっています。

ちちぶバイオマス元気村発電所

 \;  平成15年、当時の市長公約により「秩父市は木質バイオマスに取り組む」との方向性が示されました。今でこそ馴染みの“バイオマス”という言葉も、当初は「バイオマスって、どんな魚?」という次元だったそうです。しかし、市職員によるプロジェクトを発足させ、勉強会、視察等により知識を深め、木質バイオマス発電所の計画を進め、平成18年12月には念願の発電所が完成しました。翌年1月から運転が開始され、その後、平成26年3月15日の火災により稼働停止を余儀なくされるまで、7年3か月にわたり発電事業が進められてきました。
 発電所は岩手県葛巻町や秋田県仙北市と同じプラントメーカーが手掛けた発電施設になるそうです。実際に運転を開始してみると、メーカーでも分からない不測のトラブルが多発して設備が停止することもあったことから、一つひとつ原因を探りながら運転やメンテナンスのノウハウを積んできたとのこと。しかし、計画値の発電出力100kW(一般家庭約120戸分の電気と約300世帯分の温水)に対して、近年の発電量は平均約70kWだったそうです。稼働当初は、市職員が運転に従事しましたが、平成21年8月以降、発電設備の運転員に3名、燃料となる木質チップ製造に1名、山林からの間伐材調達に5 〜 6名の合計約10名を、県の緊急雇用創出基金事業を活用して雇用しました。発電所の建設には国(林野庁)の補助金を活用しましたが、メンテナンス費用等への維持費に対する補助事業はなかなかなく、電力と排熱の供給先が市のリクリエーション施設「吉田元気村」に限られていたことから、収益性は当初から厳しいとの認識があり、赤字事業として推移しました。この木質バイオマス発電では発電効率が約20 〜 25%であり、熱利用まで有効に行った場合は70%程度まで効率が上がることから、熱需要の多い温浴施設等に隣接して設置していれば、もっと経費を削減できたとのことでした。

 \;

               ▲発電木チップ

 平成21年に市長選があり、赤字体質のバイオマス発電事業を止める公約の市長が当選したため発電所の運転は一旦止められました。しかし、発電事業は秩父の森林再生の端緒であり、吉田元気村は環境学習の場であること、また、緊急雇用創出基金事業の活用などによる経費の見直し等を示したことにより市長の理解が得られ、約4か月後に運転が再開されました。しかし、残念なことに平成26年3月に火災が発生し、現在復旧の目途がまだ立っていないそうです。
 不可抗力で起きた火災に対する救済の制度が無いものか、このまま停止では残念でなりません。新時代に向けた装置のノウハウを積んでこられた7年3か月の稼働実績は他にはない誇れるもので、遠い将来に向けた秩父のみならず、国全体で必要とされる立場であろうと思います。また、今年は全国でバイオマス発電所の計画約70か所の内、30か所程度の稼働が予定されているとのことから、先導稼働した実績は必ず活かされる場面があるだろうと思っています。  \;

              ▲発電所全景

BDF(バイオディーゼル燃料)精製の取組

一方のBDF精製事業は、平成19年に秩父市で始まったもので、同年10月に県補助金により「ちちぶバイオマスてんぷら油リサイクル工場」を建設し、ごみの減量化と水環境の保全を目的として実施してきた事業です。平成25年度からは、総務省の政策「定住自立圏構想(※2)」により、周辺の4町(横瀬町、皆野町、長瀞町、小鹿野町)とも連携して、学校給食や老人ホーム、一般家庭から出る使用済みてんぷら油の回収を行っています。使用済みてんぷら油の回収量は年間約17,000リットル(平成25年度実績)で、精製したBDFを公用車に入れて地球約6周分にあたる約24万km(平成25年度末までの累計)走行したほか、埼玉エコタウンプロジェクトによる県補助金を活用して導入した3台の牽引式ディーゼル発電機の燃料として、災害時の非常用電源の役割を担うとともに、各所で開かれるイベント等の臨時電源としてもこのBDFを活用されています。  \;

            ▲使用済みてんぷら油で発電しています

未来に向かう課題

 秩父市のこれらの取組はまだ先導的であり、採算にのせるには難しい段階だと思います。技術的には確立できていても、一般市民のライフスタイルに影響するような周知・理解・協力といった段階の普及がまだ課題であるように、産業をも巻き込む全体の循環システムがバランス良く構築されない限り、どこかで無理が発生すると思われます。現在、国内では木質バイオマスにチャレンジしようにも木質チップの供給が間に合わずに高騰しているため、これまで以上に採算が合わない事例も出ているようです。独自に調達するにしても、林業家との協働が必要ですが林業の衰退があっては結局需要に答えるにも限界がありそうです。森林活用は山だけにあらず、町・都市との協力関係が同時に成長しなければ革新の芽も育たないように思いました。
 エネルギーを地産地消するシステムの普及は、次の時代に繋げてゆくために環境・経済の両面から必須であることに間違いはないと考えますが、成長の波にのせるにはまだまだ大きく越えなければならない沢山の課題を感じた取材となりました。
 一般市民にも、企業家にも、その波が寄せるのを待たずに取組を開始しようではありませんか。
(取材協力:秩父市環境部環境立市推進課、森づくり課)

 \;

        ▲秩父市職員の方(右から3人目・4人目)を囲む広報委員会メンバー 

※1 エネルギーシフト:再生可能エネルギーなど環境に対応した地産地消のエネルギー調達により地域経済の活性化を図り、循環型社会の構築によって豊かな暮らしと安定した社会の実現を目指す活動

※2 定住自立圏構想:少子高齢化社会が進むにつれ地方でも安心して暮らせる環境を構築するために地域圏で複数の自治体が協力関係を結び、人口減少の歯止めをかけるための制度。秩父圏域では、医療・福祉・教育・産業・観光・環境の各分野で具体的な取組を進めています。




           

▲ このページの先頭にもどる

携帯対応について