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「持続可能な村づくりは村民の誇り!」~群馬県上野村エネルギーシフト視察報告〈 第3弾〉

【上野村概要】~自然との共生と持続可能な地域社会づくり

   上野村は群馬県の最南西部にあり、西側に長野県、南側に埼玉県が接し、現在は人口約1300人の県内で一番人口の少ない自治体です。
 1965年から2005年まで40年間に渡り村長を務めた黒澤氏は、村の総面積の95%を森林が占める険しい地形の中で、村の経済を活性化させようと、観光振興、きのこ栽培、猪豚や十石みそなどの生産、木工加工業など村の特性に合わせた産業の育成にも力を注ぎました。
 平成の大合併に対しては「人口の少ない地域住民の立場は軽視される」と『合併しない宣言』を表明しています。黒澤氏の思いは引き継がれていき、2011年には村の資源を計画的に活用した経済循環を目指して、木材の端材を有効活用する木質ペレット工場を完成。切り捨て間伐から搬出間伐に転換することで原材料を村内で確保できるようになりました。生産されたペレットは村営温泉施設やきのこ生産工場、村営住宅や介護

  施設、公共施設などの熱源として使用され、100%村内循環としています。
 更に2015年からは木質ペレットをガス化してタービンを回すバイオマス発電所も本格稼働となり、ペレットの生産量も大幅に増産化になりました。エネルギーの地産地消による産業創出。また、村の様々な取り組みが雇用促進にもつながり、人と自然が共生する魅力からUターン、Iターンによる定住者が人口の1割以上となり、今では多方面から注目を集める自治体となっています。
 一方、2005年に村内に建設された世界最大級の揚水式水力発電は、固定資産税収が村の大きな財源となっていますが、首都圏への電力供給施設であり地元への供給はありません。それでも村内のエネルギー需給率は再生可能エネルギーのみで50%を誇る現状があり、更に小水力発電を設けて需給率100%超を目指す計画も進められています。

  ▼上野村周辺地図  

【上野村視察報告】村の資源活用は森林からスタート

   上野村の95%は森林ですが、木材資源として利用できる森はわずか数パーセントです。それは地形が急傾斜で、戦後国策で全国に展開した植林事業の際にも植林を諦めたと言われる山が多くを占めており、その為他の林業地にあるような杉や桧の針葉樹林ばかりではなく、広葉樹の多い自然林が残った所以です。秋の紅葉シーズンには山が豊かな表情を見せてくれ、観光資源になっています。
 急傾斜の山間では木材の搬出道路を造ることは難しいという理由から、村営林の一部からの伐採だけで、年間9000㎥を森林組合の製材所で建設用材などを製材しています。その際の廃材を全て村営の木質ペレット工場へ運んで徹底利用をしています。但し、東日本大震災時の福島第一原発事故以後、村内の木材ベーク(樹皮)からセシウムが検出されるようになり、ベークは使えずに剥いで捨てていた時期もあり、またキノコ工場への活用は今もできない状況になっています。

木質ペレットが村内の基幹循環

   製材所から引き取った廃材や、製材に使えない間伐材は村営の木質ペレット工場に搬入され、一旦、木チップに破砕されます。大震災前までは一部はおが屑状にしてキノコの菌床としても使われていましたが、原発事故後からセシウムの検出があり、ペレット原料にしか使えなくなりました。検出されるセシウムは制限基準値以下ですが、キノコの性質上濃縮されてしまうからだそうです。
 ペレットは年産1600トンが製造され、村営のバイオマス発電所に年間約930トン、また村営の温浴施設3カ所に年間約500トン、その他村営の医療・福祉施設など公共施設などで消費されます。村外には一切販売することなく、全て村内で消費される量を計画的に製造しています。村民はペレットストーブなどを家庭内に設置する際に村から7割の補助が得られ、現在約50台(一般家庭は17台)がこのペレットを利用しています。
 ペレット工場の建設には約3億円の建設費が掛かっていますが、その内の一部は国の補助金で賄いました。売り上げと運用コストの比較では、利益は殆ど出ないというのが現状ですが、村内消費用に価格を抑えているからでもあります。

先進かつ安定稼働のバイオマス発電所

   上野村に導入されているドイツ製の機械はペレットをガス化してそのガスを燃料としてエンジンを動かし、発電機を回す方式です。ドイツを中心に発展した方式で、インターネット回線を通じてドイツのメーカーが運転状況を管理しているそうです。この施設は発電機を回して電気をつくることが主目的ではなく、むしろ発電はおまけという位置づけで、エンジンからの廃熱を利用することを主としています。
 これらの施設の良い点は電気と廃熱の両方を活用するコージェネレーション(※1)とすることでエネルギー効率が85%を超える高効率になることが特徴です。この施設では廃熱をそのまま暖房に使うよりも、熱交換装置によって12℃の冷水を造り、隣接施設のキノコ工場の冷房に使われています。バイオマス発電所の建設費は3億5千万円が掛かりましたが、国の補助金を活用して造られました。
(※1) 電気をつくるときの排熱を暖房や給湯に利用して、エネルギー効率を格段に向上させるシステム。

地域特産品の創出で雇用も創出 “きのこセンター”

   平地が極端に少ない村では農業が難しく、農産物は斜面を使って蒟蒻芋の栽培などで、農業出荷は殆どない村でした。そこで、村では建物内で一年中栽培が出来るキノコ栽培を手掛けることにしました。
 かつては舞茸やシメジ等も試したが大手生産会社との価格競争があることから椎茸のみの栽培に絞り、生育方法の研究を重ねて肉厚で好評の椎茸一本になりました。主に埼玉や東京市場へ出荷しており、営業活動は村長を筆頭に村が開拓してきました。
 この事業では雇用を約70人創出し、村外からの収益事業になっており、椎茸茶やドレッシングなどの製品開発から、ネットショップの販売路拡大など六次化にも取り組んでいます。残念ながら菌床にするおが屑は現在前記の理由から村外から買付けており、収益率を圧迫していますが、平成26年からは民営化しています。年間の売上高は約3億円です。

猪豚や十石味噌は味で差別化

 40年の歴史を積んだ猪豚飼育は現在村職員(Iターン入村者)が管理しています。イノシシの父に豚(デュロック種)の母を掛け合わせた猪豚は、低脂肪・高タンパクで美味しいと好評ですが、豚の1.5倍の飼育期間を要し、気性の荒いイノシシの扱いが難しいなど飼育に手間がかかり、年間約160頭程度の出荷となっています。現在は、村の中の飲食店や土産物販売店で売れる範囲に留まっており、増産を目指しているようです。
 昭和のバブル期に大手企業が村に進出して工場を建てましたが、不況の煽りで撤退し雇用が失われた経緯がありました。そこで村はその工場を引き取り、村の特産品づくりを検討した末に昔から地域で作られていた麦麹味噌の生産に取組み、歴史的な街道名から十石味噌と名付けて販売を開始し、雇用を維持したのが村営味噌工場です。この十石味噌は、農水省総合食品局長賞の受賞歴もあり好評な特産品になりました。この味噌を活かしたドレッシングや菓子類などの副産物の開発も手がけられています。

観光資源で年間20万人の集客

   村では自然との共生を打ち出しており、沢脇のキャンプ場、バーベキュー+バンガロー施設、オートキャンプ場、スポーツ団体向け宿泊場や温泉宿泊場など、僅かな村の職員が一人何役も掛け持ちで、観光客を受け入れ、もてなしをしています。夏休みや年末年始、紅葉の季節などは早くから宿泊予約が満室となり、リピーター客が多いとのこと。スカイブリッジや鍾乳洞などの観光資源の整備も進めてきました。

人口問題は村の魅力で解決

 近年、Iターン者が村の人口の10%を占めるまでになり、比較的若者が新たに定住するため、少子化の問題も安定的に解決してきました。村では手厚い養育手当を子育て家庭に給付したり、出生・進学祝い金や通学助成金などの経済援助も行っています。また、子育てし易い村としての政策の他、自然との共生を大切に考える方針を教育の中心に打ち出しています。この方針に基づき、夏休み期間中に村外からも山村留学で小中校生を受入れています。

村民へのいたわりが形に

   1970年に約3000人だった人口は、その後毎年減り続け、2010年頃には1300人まで減少しましたが、以後IターンやUターン者が増えて、近年は、ほぼ水平に推移しています。しかしながら、高齢化は村の姿として顕著です。老後も安心して暮らせる村づくりは重要課題で、へき地診療所の充実化と、併設した福祉施設を整備するなどしています。高齢者グループホームやデイケア施設、自宅療養する方への給食配達など、思い思いの暮らし方を大切にしつつ、それをサポートをする体制が、僅か1300人の村にできていることに、感動しました。

揚水型水力発電所とは

   村内の南側山林奥地に電力会社の水力発電所の設置要請があり、自然破壊が少ないということで村では国策に協力する意味で設置承認をしました。2005年に神流川水力発電所が完成し、稼働を開始しました。この水力発電所は高低差653mの長野県側の南相木ダム湖と上野ダム湖の間に設けられた世界的にも最大級の大型施設です。
 発電所の中心部は地下500mに長さ251m高さ52m幅33mの大空間を堀り、その中に水力発電設備を設置しています。実はこれは原子力発電所の複合施設とも言えるもので、夜間に電力需要が落ちた際に発電量を加減することができない原発の電力を下のダム湖から上のダム湖へ揚水するエネルギーに消費し、日中電力需要がピークに差し掛かった際にこの水力発電を稼働させて僅か15分で47万kWの電力を首都圏に送電するための施設です。この広大な施設には莫大なコストが掛けられている訳ですが、これも原発を有効利用しようとする為のコストです。実際に視た規模も圧巻のものでしたが、果たして国のエネルギー政策としては正しい選択肢の元に作られたのかが疑問です。
 上野村はこの施設の設置により固定資産税収が毎年約17億円あり、大きな財源になっていますが、毎年の減価償却で1億円づつ減っているそうです。
 大震災の福島原発事故以来、原発の安全神話は崩れ、一度手に負えない事故を起こした場合に非常に危険な発電方法だという見解は国際的にも共通になろうとしていますが、我が国の政府はベースロード電源として停止中の原発を再稼動する方針で進めていますが、それは正しい選択なのだろうか議論があります。

【視察を終えて】

   同友会では中同協定時総会などの共通認識としてエネルギーは安全な方法で得てゆくべきという見解です。そして原発は決してコストが安くないということです。現在は殆どの原発が停止している状況のため、わが国全体のエネルギー自給率はわずか4%程度で、96%を海外からの輸入に頼っているため、年間約30兆円のお金が海外へ出て行っています。家庭用も産業用の電力も安定供給が危ういという状況が震災直後にありましたが、その後省エネへの全国的取組みや、メガソーラー発電所、事業所毎の発電施設の設置体制など整備が瞬く間に進み、現在は貿易損さえあるものの、電力供給量に危機は脱してきた為に安全を優先して脱原発へ進もうという見解が多くの民意ではなかろうかと思います。
 同友会が重点活動として“エネルギーシフト”に取り組もうという内容には、①エネルギーを化石燃料から再生可能エネルギーへ転換しよう。②徹底した省エネの取組みなどから新しい仕事づくりを推進しよう。③エネルギーは地域毎の小規模分散型にしてゆこう。④地域経済の活性化に繋げて生活の質の向上を図ろう。などの目標が掲げられており、新時代の形成の為には今までのエネルギー調達を中心とした社会構造からの改革が必要な時代になったことを示唆しています。
 また近年の異常気象現象などは地球温暖化の表れという報告があります。温暖化の防止の為には世界で公約したCO2排出量の削減を実現して行かなければ叶わない訳で、技術立国という日本の責任は大きいと思いますし、国を支えるのは中小企業だと言える為にも中小企業が率先して取り組まなければ矛盾を生じます。
 我が国はヒートショック死年間24000名で、これは先進国ワーストワンともいえる実態もあり、生活環境の整備はとても先進国とは言えない状況があります。この状況改善は建築の省エネ化を推進して行く中で解消できていくことで、その為に建築に関係する新たな仕事づくりは直ぐに開始できるものです。特に埼玉県は省エネ化プロジェクトを進めている県であり、意識のある中小企業は参加が可能です。
 

   今回の視察を通じて、持続可能な地域社会づくりは小さな行政体であるからこそ進めやすい点は、Think
Small Firstに通じるもので、ぶれない思いを持った黒澤元村長が10期40年間の長きに渡る政策の中で村にその意義を浸透させてゆき、まるで“株式会社上野村”と言ってもいい活動を継続して来られた成果が実ってきていると感じるものでした。そしてそれは人と自然の共生を意識し、次世代を担う子供からの教育や高齢者への福祉などトータル的な取組みを含めた上での経済活性を目指し、村民の誇りになっていました。
 同友会では2008年5月のヨーロッパ視察からEUが制定した「ヨーロッパ小企業憲章」を学び、中小企業が国や地域社会を支えるという中小企業憲章の理念や地域振興条例の考え方を進めています。エネルギーシフトはこの憲章や振興条例の理念が各地へ浸透することが先に必須のように思いました。
 再生可能エネルギーの利活用にはどうしても新しい設備の投資が伴い、行政単位の規模で導入するには国の補助金がまだ必須という感想を持ちました。設備の技術力も前の視察も含めて国産設備の技術力は高いといわれますが経験値はまだドイツには敵わない点も多いようです。
 これら経験値を積み上げて最高の技術力にするのは日本の得意とするところですから、近い将来に期待される企業になれるのは今から取り組んでいる企業になってゆくだろうと思います。これから地域をリードできるのはいつも時代の先読みをして、苦労を惜しまない中小企業やフットワークの良い行政団体だろうと思いました。

《上野村取材参加者》 東 禎章(北部地区会)、大塚 治(埼葛地区会)、福山行雄(むさし野地区会)、酒井 啓(浦和地区会)、福原 浩(中部地区会)、岡部千里(中部地区会)、矢澤敦臣(中部地区会)、長田慶洋(東部地区会)、菅野泰孝(埼葛地区会)、鵜野和廣(大宮東地区会)、大石健一(オブザーバー参加)、吉野雅一(西部地区会)、小池教之(事務局)  

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