社員が辞めない会社をつくるには、何が必要なのでしょうか?創業から10年間、経営の低迷期を経験したある中小企業が、たった一つの「覚悟」をきっかけに、社員とともに成長する組織へと生まれ変わったのです。中部支部2025年9月例会は、その変革と軌跡を、有限会社ぐっとリフォームの代表取締役である満生(みついき)氏からご報告いただきました。
トップ営業マンの落とし穴「独り化」という課題
有限会社ぐっとリフォームは、埼玉県さいたま市を拠点に、住宅リフォーム、リノベーション、不動産仲介事業を手がけています。代表の満生氏は、独立前に勤めていた会社でトップ営業マンとして活躍していました。その実績と自信から、「自分が売ればなんとかなる」という思いで、4人の仲間と共に5人で創業したのです。
しかし、その強い営業力は、次第に会社を「独り化」させていきました。会社の売上は満生氏個人の力に頼りきりとなり、他の社員は彼を支える存在に。この状況が続いたことで、満生氏は「人はいつか辞めていくもの」と考え、創業から4年後には最初のメンバーは全員離職してしまいました。この状態が10年間も続き、売上は上がったり下がったりを繰り返し、借金が増えていったのです。
社員は「渡り鳥」ではない。覚悟の転換が会社を変えた
経営に行き詰まりを感じていた頃、満生氏は同友会に入会。経営指針セミナーでの学びが大きな転機となりました。そこで「人を活かす経営」の重要性を痛感し、社員に対する考え方を180度変えることを決意しました。
「売上が上がってからではなく、まず社員がずっと働ける会社を作る」
この覚悟を示すため、満生氏は、当時厳しい財務状況にもかかわらず、思い切った先行投資に踏み切りました。それまで未加入だった社会保険と厚生年金に加入し、社員の手取りが減らないように給料もアップ。さらに働く環境を整えるため、事務所を好立地に移転しました。
結果として、2年間で約2000万円もの赤字を計上。銀行からは冷たくあしらわれる厳しい状況に直面しました。しかし、この覚悟は社員の心に火をつけます。財務状況は火の車でも、社員の士気は向上し、以前とは見違えるほど清々しく働くようになったのです。
「独り化」を解消する組織改革と仕組みづくり
社員の主体性を引き出すため、満生氏は組織の仕組みそのものを見直しました。
「複数担当者制」の導入: 以前は一人の担当者が全ての業務を担う「一貫担当者制」でしたが、業務を分解し、チームで数字をシェアする体制に変更しました。これにより、経験が浅い社員でも売上を上げられるようになり、個人の力に依存しない組織へと変わったのです。
女性社員の活躍推進: 顧客の多くが女性であることに着目し、女性建築士やデザイナーを積極的に採用。思い切って日曜日を休みにしたことで、子育て中の女性の応募が増え、働きやすい環境が生まれました。
こうした変革の結果、創業当初約1億円だった満生氏個人の売上比率は、今では4000万円ほどにまで減少しました。代わりに他の社員が大きく売上を伸ばし、会社全体の売上は3億円台から4億円超えへと大きく成長を遂げたのです。
経営者が変われば、社員も会社も変わる
創業から10年間は「いつ人がいなくなってもいい会社作り」をしていた満生氏が、同友会での学びを経て「社員がずっと働ける会社作り」に舵を切った結果、離職率は激減し、清々しく働く組織が実現しました。
最後に、満生氏が学んだ「社員が辞めない会社」をつくるためのポイントを4つにまとめます。
- まず自分自身が会社を絶対潰さない、という覚悟を持つこと。
- そして、社員を信頼すること。
- 自分自身も社員から信頼される人間になるよう心がけること。
- 会社の強みと社員一人ひとりの強みをリンクさせること。
現在も純資産はマイナス1000万円であるものの、「ここからが勝負」と語る満生氏。その変革の物語は、多くの経営者に、人を活かし、会社を成長させるヒントを与えました。
この例会をきっかけに、同友会には中小企業の経営課題を解決するための多くの学びがあることを改めて実感しました。ご参加いただいた皆様、そして貴重なご報告をいただいた満生氏に心より感謝申し上げます。

